蔵元インタビュー【阿武の鶴酒造】

旬の地魚“真ふぐ”に合う日本酒醸造に挑戦される萩・阿武地域6蔵元の方々に、蔵の特徴や、マフグに合わせてどのようなお酒を考えられているかなど、仕込みの様子をお聞きしました。

阿武の鶴酒造合資会社 杜氏 三好 隆太郎 氏



Q. 阿武の鶴酒造さんの日本酒の特徴、酒造りをする上で大切にしていることを教えてください。

お米という貴重な原料を使っているので、米の旨みや米の力を最大限に生かすように考えています。
祖父の代で酒造りを休止した蔵を34年ぶりに再開し、今期は6シーズン目の造りになります。まだまだ生産量は少ないのですが、今は少ない造りだからできることを大切にしています。楽をせずに、手間がかかっても少しでもいいお酒ができる手法を選び、酒造りをしています。

Q. 真ふぐをテーマにした阿武の鶴酒造さんの日本酒とはどのようなお酒になるのでしょうか。

真ふぐを食べる場面を想像したときに、基本ポン酢で食べることが多いと思います。そこで、真ふぐに合うお酒は、ポン酢や柚子に含まれる酸味も考慮することにしました。
真ふぐの甘みと、ポン酢や柚子などの付け合わせの酸味と、阿武の鶴の日本酒。この3つが合わさったときに、ちょうどいいおいしさになるお酒をイメージしています。

Q.   真ふぐの味はどんな印象ですか。

真ふぐは、優しい甘みのある魚だと思います。
「真ふぐ」と「ポン酢や柚子」はセットで食べられていますが、これは真ふぐの繊細で甘みのある味わいを酸が引き立て、おいしく味わえるからだと思います。

 

Q.  普段造られているお酒と真ふぐに合うお酒は何が違うのですか?

阿武の鶴は特定名称をうたわずに出すことが多いのですが、今回の真ふぐに合うお酒は、純米吟醸規格になります。

阿武の鶴の純米吟醸酒は、基本甘口のお酒になり、しっかりした酸があることで味を締めています。今期は、同じ酒母から2本の純米吟醸酒を醸造しますが、真ふぐ用の1本は、従来しっかり酸を感じさせる部分を控えめにする予定です。

 

Q.  通常の酒づくりと具体的にどのような作業を変えているのですか?

仕込むときの温度経過と水分量を調整し、酸の強さを抑えるだけでなく、酸の種類も変えようと思っています。
日本酒の酸には、リンゴ酸や乳酸、酢酸などいくつか種類があるんです。酸を生成するタイミングをずらすことで、酸の組成を変えることができます。

 

Q.  真ふぐのどのような食べ方に合いそうですか?

やはり、ポン酢やゆずと合わせることを考えているので、刺身や鍋がいいと思います。

 

Q. お客様が真ふぐと今回のお酒を合わせて味わったとき、どんな感想になりますか?

「真ふぐの料理とお酒が馴染むね」と言っていただけると嬉しいです。
お酒の甘みと融合する酸の組成にすることで、料理に馴染み、真ふぐの優しいちょっと甘い香りが引き立つようにしたいです。
際立つのは、お酒ではなく真ふぐの料理が主役と考えています。
今回の企画は、コラボしていただく飲食店さんが多くいらっしゃるので、その方々の料理を、よりおいしく味わっていただくためのお酒を造りたいです。


 

 

ありがとうございます。
ここからは、三好さんについてお聞かせください。

 

Q. 酒造りを始められたきっかけを教えてください。

阿武の鶴酒造は、1983年、祖父の代を最後に酒造りを断念しました。
ちょうど自分が生まれた年に蔵を閉じたので、自分は酒造を知らずに育ち、萩高校を卒業後、東京の大学に進学して設計を学び、店舗の内装デザインをする会社に就職しました。

その時、たまたま千葉県の酒蔵が冬季だけの雇用で求人募集をしていました。興味があったので、応募して酒造りを経験したことが、この世界を知ったたきっかけです。
酒造りは大変でしたが、米からできあがる過程が不思議で楽しかったです。次のシーズンも違う酒蔵で働かせてもらい、次第に自分も杜氏になりたいという目標ができました。

そして、阿武町の実家に戻り、酒蔵の再開を志しましたが、簡単ではありませんでした。古くなった道具の撤去や、改築の資金調達に苦労し先が見えず、立ち止まっていたところ、澄川酒造場の澄川宜史社長が手を差し伸べてくれました。
設備を貸してくれて、阿武の鶴のお酒を造らせてくれました。お陰で、販売実績を重ねることができ、阿武の鶴酒造の本格的な稼働に繋がりました。自分の想いを支えてくれた多くの方々に、心から感謝をしています。

Q.   日本酒のラベルデザインでも賞を獲得されていますが、ラベルにこだわろうという意識をもっていらっしゃるのですか。

こだわりを意識したことはないですが、デザインをするときには、どうしてこの形なのか、サイズなのか、色なのか、何を聞かれても全て答えられるようにしています。
中身のお酒も、外側のラベルも、しっかり筋の通ったものをつくりたいという思いがあります。

 

Q.  萩・阿武地区の皆さんにメッセージをお願いします。

阿武町で酒造りを始めて、萩地区の蔵元さん方と一緒に、地酒のイベントや企画に参加できていることに感謝しています。
今回の企画では、真ふぐという地元の魚をテーマにした日本酒が出来上がるので、お酒を楽しみながら、この地域の農水産業や製造業など、地場産業に少しでも興味をもっていただけると嬉しいです。

 

 

 

酒蔵名 阿武の鶴酒造合資会社 
住 所 759-3622 山口県阿武郡阿武町奈古2796
電 話 08388-2-3223
創業と酒名の由来について

1897(明治30)年創業の「阿武の鶴酒造」。先々代の祖父の代を最後に34年間休止した酒蔵を、6代目 三好 隆太郎氏が、2017年に復活させたことでも有名です。蔵の再開を志すも、古くなった道具の撤去や改築の資金調達に苦労していたところ、手を差し伸べたのが澄川酒造場の澄川宜史氏。三好氏は、澄川酒造場の設備を借りて初めての酒を完成させ、復活の翌年から国内・海外のアワードで受賞を重ねるなど、若き杜氏として活躍しています。
代表銘柄「阿武の鶴」は、阿武町という地名と縁起の良い鶴からつけられています。